共同生活援助(グループホーム)のサービス報酬への加算
はじめに
障害福祉サービスを提供する事業者にとって、報酬の仕組みを理解し、適切な加算を受けることは、サービスの質の向上や事業運営の安定に直結します。
加算とは、特定の要件や条件を満たしたサービス提供に対して追加で支払われる報酬のことを指し、事業者が提供するサービスの内容や質に応じて報酬が上積みされる仕組みです。
適切に加算を受けることは、事業者の財務的安定のみならず、利用者へのサービス提供の質を向上させるための重要な手段となります。
本記事では、障害福祉サービスの報酬体系と、共同生活援助(グループホーム)の具体的な加算の種類について詳しく解説し、加算を受けるためのポイントについても説明します。
1. 障害福祉サービス事業の給付金のしくみ
1-1. 「お金」の流れ
障害福祉サービス事業者は、利用者に対して日常生活のサポートや就労支援などのサービスを提供し、その対価として報酬を受け取ります。
この報酬は、「基本報酬」と各種「加算」から構成されます。
「基本報酬」は、提供されるサービスの種類や内容に応じて設定されるもので、事業の安定的な運営に不可欠です。
「加算」は、サービスの質や提供体制、利用者の状況などに応じて上乗せされる報酬で、事業者が特定の条件を満たすことで受けられるものです。
障害福祉サービスにおける報酬体系は、国や地方自治体の財政支援を基にしています。
利用者の自己負担は一部に限られ、大部分は国や地方自治体が負担する仕組みとなっています。
このため、適切な「加算」を受けることで、事業者の収益は大幅に増加し、利用者へのサービス向上にも寄与します。
1-2. サービス報酬額の算定方法
報酬額は、基本報酬に各種加算を加えた合計として算出されます。
加算を受けるためには、サービスの提供内容が特定の要件を満たしていることが求められ、さらにその要件を証明するための書類や申請手続きが必要です。
例えば、一定の資格を有する職員を配置することや、夜間の支援体制を強化すること、利用者の個別支援計画を策定することなどが加算の条件となることがあります。
障害福祉サービスの報酬の算定方法は複雑であり、厚生労働省の資料や通知を参考にしながら、必要な要件を満たすための準備が必要です。
さらに、加算の種類や内容は定期的に見直されるため、最新の情報を常に把握し、変更に対応できる体制を整えておくことも大切です。
障害福祉サービス事業の給付金のしくみについて、詳しくは、ブログ記事「障害福祉サービス事業のサービス報酬」(2024年11月7日掲載)をご覧ください。
2. 共同生活援助(グループホーム)への加算
2-1. 共同生活援助とは
共同生活援助(グループホーム)は、障害のある方が共同で生活し、日常生活の支援を受けるサービスです。
利用者が自立した生活を送るためのサポートを提供し、地域社会での生活を支援する役割を果たします。
具体的には、食事の準備や掃除、金銭管理、健康管理など、日常生活全般にわたる支援が行われ、利用者が自ら生活を営むための基盤を築く手助けをします。
また、共同生活援助では、利用者の自己決定を尊重し、各人の生活の質を向上させるための取り組みも重視されています。
これにより、利用者が社会参加し、地域での生活に適応していくことが促されます。
詳しくは、ブログ記事「共同生活援助のサービス内容」(2024年10月15日)をご覧ください。
2-2. 共同生活援助(グループホーム)のサービス報酬への加算(表)
加算名 | 概要 |
人員配置体制加算 | 配置するべき「世話人」および「生活支援員」に加え、特定従業者換算方法で一定以上の「世話人」および「生活支援員」が配置されている場合 (Ⅰ)区分4以上:83単位、区分3以下:77単位 (Ⅱ)区分4以上:33単位、区分3以下:31単位 |
福祉専門職員配置等加算 | 良質な人材を確保するために常勤の比率や資格等を持った福祉専門職員を配置した場合 6~15単位/日 |
看護職員配置加算 | 人員配置基準とは別に、常勤換算1名以上の看護師を配置した場合 70単位/日 |
夜間支援等体制加算Ⅰ | 夜勤で行う夜間支援従事者(夜間支援員)を配置し、利用者に対して夜間および深夜の時間を設定し、利用者の状況に応じて、就寝準備の確認、寝返りや排せつの支援等、緊急時の対応等を行う場合 |
医療的ケア対応支援加算 | スコア表項目に掲げる医療行為を必要とする患者がおり、常勤換算1名以上の看護職員を配置した場合 120単位/日 |
日中支援加算Ⅰ | 日中支援対象者1人 :539単位/日 日中支援対象者2人以上:270単位/日 |
日中支援加算Ⅱ | 日中支援対象者1人 :270単位又は539単位/日 日中支援対象者2人以上:135単位又は270単位/日 |
加算名 | 概要 |
長期入院時支援特別加算 | 利用者が長期入院した際、一定の支援を実施した場合 122単位/回 |
入院時支援特別加算 | 利用者が入院した際、一定の支援を実施した場合 入院期間3日以上7日未満:561単位/回 入院7日以上:1122単位/回 |
帰宅時支援加算 | 利用者が帰省した場合に伴う家族等との連絡調整や交通手段の確保等の支援を行った場合 外泊期間3日以上7日未満:187単位/回 外泊期間7日以上:374単位/回 |
長期帰宅時支援加算 | 利用者が長期規帰省した場合に伴う家族等との連絡調整や交通手段の確保等の支援を行った場合 40単位/回 |
精神障害者地域移行特別加算 | 精神科病院等に1年以上入院していた精神障害者に対して、地域で生活するために必要な宗さん援助等を社会福祉士、精神保健福祉士または公認心理士が実施した場合 300単位/回 |
医療連携体制特別加算 | 医療機関等と連携することにより、看護職員が障害福祉事業所を訪問して利用者に対して、健康管理等を行った場合 39単位/回 |
福祉・介護職員等処遇改善加算 | 介護サービス包括型:10.5~14.7% 外部サービス利用型:10.5~14.7% 日中サービス支援型:15.2~21.1% |
2-3. 人員配置体制加算
2-3-1. 加算の趣旨・目的
適切な人員配置を行うことで、報酬に加算が適用されます。
例えば、一定の資格を持つ職員を配置することで、加算を受けることができます。
具体的には、介護福祉士や社会福祉士などの有資格者を配置することで、サービスの質を高めるとともに、加算を受けることが可能です。
この加算を受けるためには、対象職員が定められた役割を果たしていることが求められ、事業者は人員配置の管理体制を整え、利用者への対応が万全であることを示す必要があります。
2-3-2. 加算の算定基準
人員配置体制加算Ⅰ 基準人員かつ(世話人の配置 「12:1」) |
|
区分4以上 | 83単位 |
区分3以下 | 77単位 |
人員配置体制加算Ⅱ 基準人員かつ(世話人の配置「30:1」) |
|
区分4以上 | 33単位 |
区分3以下 | 31単位 |
【設例】次の事業所の人員配置体制加算の額は?
・共同生活援助
・世話人の配置:5名
・利用者(20人)の内訳
区分6:1人
区分5:2人
区分4:3人
区分3:4人
区分2:5人
区分1以下:5人
・愛知県名古屋市(3級地)
【利用者1人の1日当たりの人員配置体制加算の額】
83単位×6人+77単位×14人
=1,576単位
【事業所の1月(22日)当たりの人員配置体制加算の額】
1,576単位×22日×11.20円
=338,326円(端数切捨て)
2-4. 夜間支援等体制加算Ⅰ(夜勤体制)
2-4-1. 加算の趣旨・目的
夜間における支援体制を強化することで、加算を受けることが可能です。
夜勤体制を整え、利用者の安全と安心を確保することが求められます。
具体的には、夜間に常勤の職員を配置し、緊急時の対応や利用者の見守りを行うことで、加算を受けることができます。
特に夜間の支援は、利用者が安心して生活できる環境を提供するために重要な要素であり、事業者は利用者の生活リズムや個別のニーズに応じた支援体制を整えることが求められます。
また、夜間支援の強化により、利用者の健康や安全が確保されるだけでなく、家族の安心感を高める効果も期待されます。
家族が安心して預けられる体制が整うことで、利用者もより安定した生活を送ることが可能となります。
2-4-2. 加算を得るための要件
①専従・夜間支援従事者を夜間支援体制の時間配置とする。
②夜間支援従事者1名のみの場合、共同生活住居間の時間的距離は10分以内、かつ、非常通報装置や携帯電話等の特別な連絡体制を確保している。 ③夜間支援従事者1名による支援可能数は、住居は5か所まで、利用者数は20名まで。 ④夜間支援従事者1名が住居1か所の夜間支援を行う場合、利用者数は30名まで。 ⑤病院や宿泊型自立訓練などの宿直夜勤と、夜間支援従事者を兼務する場合、加算不可。 ⑥住居1か所に夜間支援従事者2名以上の場合、利用者数を按分する。 ⑦サテライトについては、形態や入居利用者の動向・状態等を勘案したうえで巡回の必要を判断する。 |
2-4-3. 加算の算定基準
対象利用者数 | 単位 |
2名以下 | 区分4以上 :672単位/日 区分3 :560単位/日 区分2以下 :448単位/日 |
3名 | 区分4以上 :448単位/日 区分3 :373単位/日 区分2以下 :299単位/日 |
4名 | 区分4以上 :336単位/日 区分3 :280単位/日 区分2以下 :224単位/日 |
5名 | 区分4以上 :269単位/日 区分3 :224単位/日 区分2以下 :179単位/日 |
対象利用者数 | 単位 |
6名 | 区分4以上 :224単位/日 区分3 :187単位/日 区分2以下 :149単位/日 |
7名 | 区分4以上 :192単位/日 区分3 :160単位/日 区分2以下 :128単位/日 |
8名 | 区分4以上 :168単位/日 区分3 :140単位/日 区分2以下 :112単位/日 |
※対象利用者数が9名~30名は省略。
【設例】次の事業所の夜間支援等体制加算Ⅰの額は?
・共同生活援助
・利用者(6人)の内訳
区分6:1人
区分5:1人
区分4:1人
区分3:1人
区分2:1人
区分1以下:1人
・愛知県名古屋市(3級地)
【事業所の1日当たりの夜間支援等体制加算Ⅰの額】
224単位×3人+187単位×1人+149単位×2人
=1157単位
【事業所の1月(22日)当たりの夜間支援等体制加算Ⅰの額】
1157単位×22日×11.20円
=285,084円
まとめ
障害福祉サービスの報酬体系は、基本報酬に各種加算を組み合わせた構成となっています。
適切な加算を受けることで、サービスの質を高め、利用者の満足度向上につなげることができます。
最新の情報を常に確認し、適切な対応を行うことが重要です。
また、加算を受けるためには、必要な条件を満たし、適切な手続きを行うことが求められます。
加算を受けるためには、サービス内容や提供体制に合わせた準備が必要です。
障害福祉サービスの報酬は定期的に見直しが行われるため、最新の加算基準や要件を把握し、事業者としての柔軟な対応が求められます。
また、利用者やその家族にとっても、安心してサービスを受けられる環境を提供するために、事業者の努力が重要となります。
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参照記事等
LITALICO仕事ナビのウェブサイト「基本がわかる 共同生活援助(障害者グループホーム) 基本報酬と加算・減算一覧」
https://snabi-biz.jp/articles/67(最終閲覧2024年11月14日)
かんたん請求ソフトのウェブサイト「共同生活援助」
https://www.fukushisoft.co.jp/help2/6363/(最終閲覧2024年11月14日)
北村行政書士事務所のウェブサイト「グループホーム(共同生活援助)の報酬について分かりやすく解説します」
https://kitamura-gy.com/2479/(最終閲覧2024年11月14日)
伊藤誠『障がい福祉事業の開業・手続き・運営のしかた〔改訂3版〕』(2024年、アニモ出版)